【イベント報告】SDGs採択3周年記念イベント「災害から何を学ぶのか:日本・フィリピンの経験から見えてくるSDGs時代の防災」

9月25日(火)、SDGs採択3周年記念イベント サステナブル・ストーリー・プロジェクト第4弾「災害から何を学ぶのか:日本・フィリピンの経験から見えてくるSDGs時代の防災」を開催しました。当日の内容をまとめました。

SDGs採択3周年記念イベント
サステナブル・ストーリー・プロジェクト第4弾

災害から何を学ぶのか:日本・フィリピンの経験から見えてくるSDGs時代の防災

概要

日 時:2018年9月25日(火)18:30-20:30
会 場:聖心女子大学グローバルプラザ(4号館)3階 ブリット記念ホール
主 催:一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)
共 催:国際開発学会社会連携委員会、防災・減災日本CSOネットワーク(JCC-DRR)
協 力:聖心女子大学グローバル共生研究所

イベント趣旨

SDGsが採択されて3年が経過

2015年9月25日、国連総会で世界中の首脳が、「持続可能な開発目標」と採択。2000年に採択されたミレニアム開発目標に続く次の目標は、「社会」「環境」「経済」に着目し、「誰ひとりとり残さない」ことを掲げる、意欲的なものとなりました。
SDGs市民社会ネットワークでは、採択から3年たったこの日、第4回サステナブル・ストーリー・プロジェクトとして、フィリピンの農村開発NGO、西日本豪雨の被災地で活動する岡山のNPO、そして気候変動に関する政策提言を行うNGOをゲストに迎え、「防災」「気候変動」「持続可能なまちづくり」をテーマに、「つづく社会」づくりのあり方を議論しました。
ハイヤン台風被害への支援に取り組んだNGO「PRRM(Philippine Rural Reconstruction Movement/フィリピン地方再建運動)」のベッキー・マレーさんからフィリピンの災害支援の現状をお聞きしつつ、岡山で豪雨災害支援に取り組む石原達也さんと、日本政府に対して気候変動対策を提言する気候ネットワークの桃井貴子さんとともに、国内外での防災課題を考えました。

世界各地で多発する災害と気候変動の関わり

2018年7月に発生した西日本豪雨は、多くの地域で河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生し、死者数が200人を超える甚大な災害となりました。また、上水道や通信といったライフラインに被害が及んだほか、交通障害が広域的に発生する「平成最悪の水害」となりました。現在も被災地域では、多くのボランティアなどが連携した支援活動が行われています。
こうした災害の中で近年指摘されるのは温暖化による「想定外」の災害の多発と、これまでにない「防災」の取り組みの重要性です。日本の各自治体ではどんな取り組みが行われているのか、またどんな取り組みが求められるべきなのか、考える必要があります。
多発する災害に私たちはどのように対策すべきなのか、地域ですべきことは何か、日本とフィリピンの事例をもとに考える本イベントには、直前の広報に関わらず50名が参加。問題への関心の高さがうかがわれました。会場からはフィリピンの事例や災害からの復興を通じたエンパワーメントの重要性、地域のコミュニティ機能のあり方といったスピーカーからの指摘に対する賛同など、様々な意見を聞くことができました。
SDGs市民社会ネットワークでは、今後も地域における課題を様々な角度で考える機会を提供していきます。

当日概要

キースピーチ①「フィリピン台風から学んだこと」

ベッキー・マレー(PRRM/GCAP Global 共同議長)
通訳:今田克司(SDGs市民社会ネットワーク 業務執行理事)


災害復興において、PPRM(Philippine Rural Reconstruction Movement/フィリピン地域再建運動)はクリエイティブな方法を採用しています。例として、衛生や保健、災害等の研修やセミナーなどを開催し、組織のリーダー育成を行いました。そして沿岸の資源マネジメントやコミュニティを中心とした災害リスク軽減(DRR / Disaster Risk Reduction )を行っています。
農業に関しては、有機農業に関するトレーニングを通じたネットワーク構築を行いました。これによって持続可能な農業や職業の開発につながります。そして農業支援の際には野菜の種を配って試験的な農場をつくり、野菜の栽培方法を実演し、貧困から脱却するための生計支援を行っています。
さらに生活支援の一環として、野菜だけではなく豚・鶏・アヒルなどの家畜の育て方、そして、ココナッツオイルの製造支援もしています。コミュニティの住民に対する支援活動は、自治体の農業管轄部署と共に実施しています。
これらの災害復興を通して、私たちはいくつかの教訓を得ました。まず、人の参加を促進すること。そして住民がプライドを持って再建を行うためのイノベーションの重要さです。また、活動の一環として、気候変動や生物多様性に関して国際条約に向けた枠組みにも関わっており、保健・自治・生計のあらゆるエコシステムによって事業を展開しています。人々のレジリエンスの強化も重要です。他のネットワーク団体とも手を組み、人材育成に取り組んでいます。持続可能な開発を地域レベルで行うには人の参加が大事ですので、これからも連帯の気持ちを持って仕事を続けたいと思います。

キースピーチ②「西日本豪雨の現状と岡山の取り組み~地域のつながり、情報発信」

石原達也(NPO法人岡山NPOセンター代表理事/SDGsジャパン理事)


西日本豪雨で被害にあった岡山県の様子を紹介します。私が代表執行役をつとめる「みんなの集落研究所」が活動しているほぼ全ての地域が豪雨の被害に合いました。岡山県社会福祉協議会と相談し、「災害支援ネットワークおかやま」の立ち上げ、「ももたろう基金」の設置、物資をウェブで募集するSmart Supplyの実施、クラウドファンディングサイトの立ち上げを行いました。岡山県の75.3%が中山間地域ですが、その人口比率は29.9%、高齢化率が30.8%という状況です。みんなの集落研究所では、地域リーダー・移住若者・支援者が一体となって、地域組織の見直しアンケート調査や生活者への聞き取り、地域おこしの支援等を行っています。地域自治の仕組み、福祉・生業・住まいを全体として支え、当事者の行動が枠組みを超えたつながりとなります。
日本はかつて農村的なコミュニティがほとんどでした。現在は、企業で働く人や、趣味や感性のコミュニティに属するフリーランスの人が増え、ライフスタイルが変化する中でコミュニティ形成が多様化しています。これから特に社会的ニーズが高まる分野は救済サービスとコミュニティづくりであると考えています。

キースピーチ③「気候変動と災害:今世界はどう考えるのか?」

桃井貴子(気候ネットワーク 東京事務所長・理事)


世界各国で気温上昇が起こっており、地球規模で温暖化が進んでいます。北極圏の海氷が3分の1に減少し、この100年の間に海面が20cm上昇し、平均気温は1℃上昇しています。日本国内では集中豪雨が起こり、今年7月6日未明までの24時間降水量が各地で100mmを超え、7月23日には埼玉県熊谷市41.1℃と観測史上初の気温を記録しました。
今後、平均気温が3℃上昇すると予測不能な現象が起こると言われています。人類が生きていける環境を保つためには、気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃から2℃未満にとどめなくてはなりません。この1.5℃から2℃にとどめるということがパリ協定で定められています。CO2の排出量もできるだけ減らし、今世紀後半には実質的ゼロに削減できるよう取り組むと明言しています。CO2の排出量が多い石炭火力発電所について、G7諸国の動向を見ると、パリ協定以後、米国、英国、カナダは建設の廃止を表明しています。一方、日本では、2010年から2017年にかけて新たな運転開始と新設計画中のものがあり、パリ協定と真逆の方向に向かっています。日本も他国と同じく、パリ協定に準拠して石炭火力発電を廃止すべきです。そして、持続可能な分散型のエネルギー構造と自然エネルギーにシフトチェンジしていくべきです。
今後の対応として、①気候変動対策の強化(市民が石炭火力発電を認めないという意思表明をしていくこと)、②気候変動リスクを踏まえた災害対策(気候変動によるリスクをふまえた適応策を防災計画の中に組み込む)こと、③エネルギーシステムの転換(持続可能なエネルギーの普及を街づくりの観点から推進すること)が必要です。

ダイアログ「レジリエンスな地域づくりとは?震災支援を通じて見えるコミュニティづくり」

新田:
本日はSDGs採択3周年ということで、世界各地で記念イベントが開催されています。このイベントでもぜひ集合写真を撮って、日本からのアピールとしたいと思います。
会場からご質問を受ける前に、お話しくださった3名の間で質問があればお願いします。
石原:
ベッキーさん、新たに農村のコミュニティで何かを一緒にやっていこうとするときに、一番始めに行うことは何でしょうか?
ベッキー:
一番大切にしていることは、自分たちで変えていける力があるということ知ってもらうことです。フィリピンも日本と同じ島国であり、広範囲の様々な地域に人々が暮らしています。私たちの団体が行っていることは、創設以来、誰一人取り残さないことを考えてやってきました。漁師、女性、子どもをどう支援するかを考えてきました。どのような層の人の支援が必要か、その人々の能力、自助力があるかどうか、コミュニティでつながっていけるかを考えました。大事だと思うことは、分析すること、どのような社会的・経済的・政治的な構造があるかを知ることです。これはPolitical economyと言います。どのような不平等な力関係が存在しているか。自治体や行政と対等にやっていけるバランスを知ることが大切です。
桃井さんに伺います。石炭発電所について活動することで何が一番困難なのでしょうか?政治的な力でしょうか、それとも企業の力でしょうか?
桃井:
まず、各地で起こっている気温上昇、気候変動が災害のリスクとして捉えられていない現状があります。東日本大震災以降、原発は大きなリスクだということが市民の共通認識となり、世論の声となりました。石炭やCO2の排出量に関しては、市民レベルで危機感がありません。それ故、企業も政府も動かないのです。石炭火力発電について、カナダでは廃止の動きがあるなか、日本では稼働中のものに加え、新たに40基を建設しようとしています。このギャップを知ることが大切です。
石原さんに伺います。岡山県は自然エネルギーの取り組みが盛んですが、自然エネルギーが役に立ったこと、地域コミュニティとのつながりが活かされたと思うことはありますか?
石原:
岡山のエネルギーを考えている会と公民館と組んで、自然エネルギーは積極的に取り入れています。今回の災害では、行政や企業の地域で動いている人と現場で動いている人が協働して動いたことができたと思います。避難所の整備についても、民間の事業者が仮設住宅の周りに買い物ができる場所がないところを食材の移動販売をしてくれるなど協力的でした。
会場参加者①:
東日本大震災も、災害は事後対応となっており、事前防止ができていないという問題意識があります。日本は火力発電や原子力発電を進め、経済中心の考えで、自然エネルギーに取り組めていません。2030年を達成期限とするSDGsの達成に向けて、「こんな世界にしていきたい」という市民の声を集め、それぞれの活動・コミュニティを一つにまとめ、声を大きくして提言活動していけばいいのではないでしょうか?
会場参加者②:
レジリエンスを高めるために、科学の力が必要なのか、それとも地域のつながりを高めるための祭りが必要なのか、いろいろ議論があると思います。両者が融合している良い事例があれば教えてください。
石原:
過去の経験が反映されていないのは、行政機関が学んでいないからです。仕組み上の理解はされているが、細かい部分は反映されていません。防災には行政と民間の連携が必要です。災害前から、倉敷市の危機管理課の方には、「防災には民間とのつながりが重要である」と訴えてきました。しかし、「必要ない」という回答でした。実際には、災害支援に民間の力は不可欠です。既存の仕組みだけで完結できない部分は、国によるコントロールをやるべきであると考えます。予算の権限の持った人の統率が必要です。今後1年に1度は、企業や政府へ提言書を届けていきたいと考えています。2つ目の質問について、精神的なつながりが大切だと思っています。岡山県美作市は田んぼの多いところで、移住者も多く住んでいます。そこでは、地域外の方も交えたお祭りを開催しています。必ず融合していけると考えます。
桃井:
日本のエネルギー政策は経済中心です。原発事故やパリ協定も無視されて策定され、閣議決定されました。あらゆる業界に目配せした政策となっています。これからはビジョンを確立すべきだと思っています。科学進歩や革新的な技術改革において莫大の予算が組み込まれています。例えば、排出されたCO2を地下に埋め込む研究に莫大の予算をつぎ込んでいます。しかし、地震が起これば埋め込んだCO2は地上に出てきますよね。自然エネルギーの推進に向けて地域コミュニティで新たなネットワークを作って、しっかりとしたビジョンを確立していくべきだと思います。
ベッキー:
フィリピンでは2013年のハイヤン台風の経験から多くのことを学んでいます。台風の教訓により、情報の提供がかなり進んでいます。災害が起こった時にいかに備えるか、地域のコミュニティで検討しています。フィリピンでは、中央政府だけではなく地域行政の力が強いという前提があります。中央政府に問題が多いのが現状です。政治の世界では地域の事情はあまり重視されません。ですが、フィリピンの特徴は、NGOやNPOといった市民社会組織が力を持っています。国内には20万のNGOが活動しており、しっかり市民と連携しています。地域レベルで活動できる気候変動への取り組みを、自治体と組んで行えています。もちろん科学技術の力は大きいですが、人々に正確な情報が伝わることが最も大切だと考えています。SNSの発達した情報化社会で、誤った情報も多く見られます。特に災害時は、誤ったニュースで人々の混乱を助長させてしまいます。
新田:
最後に日本へのメッセージをいただけますか。
ベッキー:
NGOの活動団体数は重要ではなく、数が少なくともいかにNGOが現場で関係性を築くことができるかが鍵だと思います。私の団体の理念は、「彼らと共にあれ、彼らから学べ、彼らの持っているものから構築しよう」というもので、現場の人々中心で物事を考えています。私たちNGOは、これらの活動を世の中に広めることが大切であると思います。

閉会挨拶

大橋正明(聖心女子大学人間関係学科教授/防災・減災日本CSOネットワーク(JCC-DRR)共同代表/国際開発学会社会連携委員会委員)


SDGsに気候変動のゴールにありますが、災害のゴールはなく、いくつかのゴールの下のターゲットになっている点が残念です。しかし、それを補完する国際枠組みとして、「仙台防災枠組2015-2030」が2015年に策定されました。そこには「2030年までに災害による死者数を大幅に減らす」や「2020 年までに、国や地方レベルの防災・減災戦略を有する国の数を大幅に増やす」など、7つの目標があります。災害とは、「災い」が「害」になると書きます。DRRとはDisaster Risk Reductionの略です。つまり、予防や対策によって害を減らすことができます。現在、災害関連の予算はほとんどが災害の発生後に使われていますが、今後は発生前の備えに費やされていくべきだと考えます。防災にはハードもソフトも必要で、人々のレジリエンスが必要になります。そして、災害が起きたときは、妊娠中の方、幼児、外国人、高齢者といった脆弱な方々の目線で考えなくてはなりません。さらに、自然災害と人工災害を分けて考えるのではなく、両者一緒に取り組むべきです。福島県での地震と原発の問題、ミャンマーでのロヒンギャ難民キャンプの問題もあります。自然と人為的な災害は併せて検討していくべきでしょう。

参考:サステナブル・ストーリー・プロジェクトとは

SDGs市民社会ネットワークが2017年より始めた勉強会企画「サステナブル・ストーリー・プロジェクト」は、個別具体的なトピックについてNGO、アカデミア、民間セクター、自治体、省庁などあらゆる「SDGs」にかかわる人が登壇し、多角的な角度で「サステナブルな世の中」について議論する企画です。これまで「うな丼の未来」「オリパラとSDGs」「サンゴ礁保全とビジネスの関係」など多様な分野で開催しました。